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貴州省安順の地戯

 

亡霊が上ってこないと単なる儀礼で終わってしまう、戦死者の霊を慰めるとか、自分たちの仲間が死に霊を慰めなければ祟りが起こるかもしれないから集団で祀る。その時に戦いの姿を再現すると演劇にはなる。演劇にならなくても物語でもいいんですね。幽霊に対しては霊鎮めをしなくてはいけないという意識が演劇になる前から起こる可能性があるのです。
中国の場合の演劇は、大量に組織的にお供え物をしなくてはいけない。ただその人のことを偲んだり、懐かしく思ってお通夜みたいに語り合うのだったら霊鎮めでいいわけです。特定の人の死ではなく、大勢の死に対して組織的に祀らなければならない時が演劇化の第一歩なのです。そうすると追儺でやってきたことが集団的な戦闘の有様を再現するのに役に立つことになります。演劇の訓練がやりやすくなるのでしょう。ただし、無名戦士の話では物語になりませんので、『三国志』などの有名な話を持ってくる。そういう例が中国の漢族の中ではなかなか見つからなくて却って、辺境の安順の地戯に見られるのです。南方ではこのタイプは衰えているのですが、代わりに女の人の幽霊の話になっていくのです。地方により集団の関心の持ち方が違ってくるからです。南方では武術を好まない、それにあまり戦死者がでない。もちろん日常の村の争いでもある程度常に戦死者はでるようになっている。ただはっきりいえることは、仮面を被った追儺が盛んな安順のような地では、屯田兵が戦って土地を獲得していましたから、

 

 

 

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